『DEATH IS NOT THE END』、ブートおきまりの安易さなのか、あるいはネタに窮したのか。いずれにしても、あまりピンとこないタイトルではあるが、その内容たるやファンにはたまらないものである。大きな声では言えないが、必携であることはもはや言うまでもない代物だ。今までもかなりの数が出回っている1969年2月24日、ロンドンはロイヤル・アルバート・ホールでのライブを完全収録。
おまけにリハーサル・テイクもくっついている。なにより、音が非常に良い。サウンドボード録音あっぱれ。さすがに伝説のパフォーマンスのひとつとして数えられるだけあって、演奏内容は素晴らしい。
69〜70年への変遷の中で、ジミの演奏はビジュアル面でのアピールを減少させ、果てしなく深い音の世界へと
変化をとげていくが、この日のプレイはまさに彼の新たなスタートを象徴するに余りあるものである。70代によく見られる極めてディープで、まるでLSDやヘロインといったヘビーなドラッグを常習する者にしか合い入れないようなインプロとは対照的に、もっとピュアなディープさがここにはある。
何と言おうか、ブルースという一本図太いバ
ックボーンが背景にあり、そこからジミにしかなし得ない派生の仕方を見せてくれるのだ。
「Lover Man」は、B.B.キングの「Rock Me Baby」がジミの手中に収められて新たな曲へと進化したナンバーだが、ここでの「Lover Man」は70年代のいわゆる完成形とも言えるコンパクトなものとはおよそ縁遠い遊び心に溢れた演奏となっている。
アルバム『SOUTH SUTURN DELTA』(MVCE-24055)での「Hear Comes [Lover Man]」で聴くことの
できるジミのギターとハミングがここではライブで楽しめる。
そして、やはり注目なのが「Stone Free」だろう。以前にもALBUMSのページで『CONCERTS』(CCSCD235)を紹介し
た折に、ベタ誉めしたものだったが、やはりこのプレイはスゴイ。ジミが演奏した「Stone Free」の中では、ダントツで1
位を突っ走る演奏だ。
リフ中での小技もさることながら、ソロは圧巻である。延々と繰り返されるノエルの一定のベー
スラインの上を、ジミが上下左右、果ては次元を超えて疾走する。そして、拍車をかけるようにミッチのミツバチのごときドラミングが心地良いグルーブを生み出していくのである。この12:33のトリップは文字通りのトリップを実現していると言っていい。本アルバムでは『CONCERTS』ではカットされているソロ中盤のミッチのソロを収録しているので、なおさらその効果は威力を増しているというもの。最強の「Stone Free」を是非!
「Hear Train A Comin'」に「Red House」とジミのブルース魂が炸裂するナンバーはいずれも10分を超える長尺の演奏となっているが、ことロイヤル・アルバート・ホールに関しては、このような演奏も安心して聴くことが
できる。
後期のジミは、弾き始めたはいいが、しばしばヘビーなドラッグ特有のダウナー状態へと陥ることが多く、途中からジミの気分をもろに体現する重く鈍いプレイをするようになったり、その症状がひどい時にはそのままフェイドアウトという結末を迎える場面が多々見受けられるが、この時期のジミは自分のテンションを維持することに気を配っている
かのように、曲全体に上手に抑揚を持たせている。後期の演奏には、そのディープな指さばきと同時に、その日のジミの気分によって顕著に演奏内容が変わってくるので、そこを楽しむという独特の魅力があるものだが、それ故にブートを買うには相応の覚悟を持たなければならない。当たった時は、それこそスゴイが...その点、ここで演奏される「Hear My Train A Comin'」と「Red House 」の両曲は、あくまでもブルースを基盤にした、ジミの
突飛さを見せつける実に安定したもので、かつつけいる隙間のない濃い内容となっている。 また、ノエルの繰り返され
る一定のベースラインが、ジミの自由な演奏を引き出すことに成功しているのだ。
「Foxy Lady」は、69年初期の演奏としては、驚くほど手の込んだ後期のジミを特に好む僕のようなファンには実に
満足のいく内容となっている。この曲もまた70年まで引き継がれた曲であり、その過程では様々な装飾を身に
着けていったが、ここでの演奏もリフに施されるフレーズはアトランタ・ポップ・フェスティヴァル(1970年7月4日)に通ずるものもあれば、70年
代ではあまり聴くことのないクールなフレーズが随所に織り込まれている。特に「Foxy Lady」はアウトロも楽し
みな曲だが、ここでも見事なアウトロを聴かせてくれる。引っ張って引っ張って、つき離す例のコント・ユートピア系のインパクトである。
それにしても、DISC1だけであまりにも長いこと書いてしまったので、最後にDISC2に少し触れてお開きとしたい。
あんまり言ってしまうと楽しみも半減してしまうので。
DISC2の「Hey Joe」から後はリハーサル・テイクである。一見、「hey Joe」が最後の曲のような印象を受けるが、そうではない。その前の「Smashing Amps」でジミは狂いに狂ってステージを後にしているのだ。
となると、その「Hey Joe」と「Hound Dog」は本番では演奏されなかった曲となるが、「Hound Dog」はリハを聴く限りでは本番では是非演奏してもらいたかったという感じ。3曲中2曲はインストだが、10は『RADIO ONE』の演奏とはまた一味も二味も違ったクールなリフを聴かせてくれる。それはある意味、ウッドストックの「Izabella」とフィルモア・イーストの「Izabella」との関係のようなどっちがカッコイイというのではなく、どちらもバッチリはまったオルタネイティブな関係にあると言っていいと思う。
この日のライブのオープニングナンバーとなる「Lover Man」に入る前にわずかだが「Hound Dog」のイントロが演奏されるが、あるいはその時点までジミは「Hound Dog」を迷っていたのかも知れない。
というわけで、今回は久々に素晴らしい音源を手に入れたので、いつもよりちょっとまじめに、そして真剣に再考してみました。ここまでの演奏であれば、オフィシャルでの発売もそれほど遠い話ではないと思いますが、待ちきれんという方はどうぞ。
October 30th 1999 K. Seki