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環境変動によるカビ発育抑制

(環境生物学研究所)○阿部恵子あべけいこ

1.はじめに
建物や設備のカビ汚染は湿気が原因であり、汚染の防止対策として除湿が有効である。しかし、冷房時の空調機内部や多量の水を使用するプールや浴場など、除湿できない場所もある。
 カビの発育は、発育可能な環境が持続することにより促進され、その環境が中断されれば発育は停止する。そして、発育中断時の環境条件によってはカビが死滅する。
 建物内や設備内部のカビによる汚染は表面から始まり、カビが空中に浮遊しどこにも付着していない状態で汚染が進行することは無い。そこで、表面環境に焦点をあわせ、同じ絶対湿度環境下で表面温度を変えることによる環境変動のカビ抑制効果について検討したので、ここに報告する。

2.方法
使用カビ:内部にカビの胞子と栄養分を入れた試験片(カビセンサー、図1)を環境変動実験に用いた。使用菌株は、Eurotium herbariorum J-183(好乾性カビ、以下ユーロチウムと記載)とAlternaria alternata S-78(好湿性カビ、以下アルタナリアと記載)である。
環境の設定:小型の密閉容器内およびアクリルボックス内に特定の温湿度環境を作った。内部の相対湿度(RH)は容器内に入れるグリセリン水溶液の屈折率1)または塩飽和溶液の塩の種類2)により調節し、温度は容器およびボックスを入れるインキュベーター(または恒温室)の温度により調節した。
カビセンサー
図1 カビセンサー

温度上昇RH低下処理による環境変動:密閉容器内に絶対湿度が0.0095kg/kg D.A.で、温度とRHが異なる環境を作製した。表1に作製した4種類の環境を示す。温度15〜30℃は何れも発育可能温度である。89%RHは発育可能で、65%RH以下は発育不可能である。15℃で89%RHの環境24時間培養ごとに3時間の20℃(25℃または30℃)の低RH曝露を挟みこんだ変動環境で、3日間の間欠培養における発育を調査した。環境の変動はカビセンサーを設定環境間で移動させることにより作り出した。発育は15℃で89%RHの定常環境で3日間連続培養した場合と比較した。

表1 絶対湿度、温度、RHの関係
絶対湿度(kg/kg D.A)温度(℃)RH(%)
0.00951589
2065
2548
3036

高温処理による環境変動:15℃で95%RHの環境24時間培養ごとに30分間の70℃曝露を挟みこんだ変動環境で、3日間の間欠培養における発育を調査した。70℃の環境作製には乾熱滅菌器を用いた。発育は15℃で95%RHの定常環境で3日間連続培養した場合と比較した。
面発熱による環境変動:アクリルボックス(45×45×60cm)の側面にカーボン面状発熱体(テクノエレメント(株)製。40×18cm。100V、24W。通電により60℃に発熱)を貼り、ボックス内部に塩化カリウムの結晶とその飽和溶液を入れたバットを置き(内部は約84%RHになる)、ボックスごと25℃の恒温室に入れた。ボックス内の面状発熱体の表面と向かい側の壁面にカビセンサーを貼り、72時間培養(内部環境に曝露)した。カビセンサーを貼って6時間後、30時間後、および54時間後の3回、面状発熱体に10分間ずつ通電した。

3.結果と考察
表2に、15℃・89%RHの定常環境下での連続培養と、同環境下の24時間培養ごとに20℃・65%RH、25℃・48%RH、または30℃・36%RHの3時間処理を1回または2回挟んだ変動環境下(間欠培養)のユーロチウムの菌糸長を示す。何れの変動環境も、15℃・89%RH環境下での培養時間の合計は、48時間または72時間である。
 15℃・89%RHの定常環境下のユーロチウムは24時間では発芽せず、48時間で約100μm、72時間で約300μmの菌糸長になった。20℃・65%RH・3時間を挿入した変動環境下では、発育はほとんど抑えられなかったが、25℃・48%RH・3時間または30℃・36%RH・3時間を挿入した変動環境下では全く発芽しなかった。環境の変動幅が大きい場合にカビの発育が抑制された。
 表3に加熱処理の影響を示す。24時間培養毎の70℃・30分処理によりユーロチウムの発育もアルタナリアの発育も完全に停止した。
 図2にアクリルボックス内の環境で72時間培養後のユーロチウムを示す。Aは面状発熱体表面、Bは向かい側の壁面に貼ったカビセンサー中での発育である。面状発熱体表面では全く発芽せずユーロチウムの発育は完全に抑えられた(図2A)。面状発熱体の向かい側の壁面では正常に発育し72時間で約600μmの菌糸が伸長した(図2B)。
 間欠的なRH低減および加熱処理はカビ防止対策として有効であり、面状発熱体は新しい防カビ手段として様々な建物や設備への利用が可能と思われる。



表2 間欠的な温度上昇RH低下処理の影響
15℃ 89.4%RH
培養時間の合計(h)
ユーロチウムの菌糸長(μm)
定常環境1)変動環境2)
20℃ 65%RH25℃ 48%RH30℃ 36%RH
240
4897(14)3)87(11)00
72299(61)240(46)00
1)15℃・89.4%RHで連続培養。この環境では、好乾性のユーロチウムは発育するが好湿性のアルタナリアは発育しない。
2)24時間培養ごとに、3時間ずつの各環境曝露を挿入。
3)顕微鏡写真4視野の平均菌糸長、カッコ内の数字は標準偏差。


表3 間欠的な加熱処理の影響
15℃ 95.4%RH
培養時間の合計(h)
ユーロチウムの菌糸長(μm)アルタナリアの菌糸長(μm)
定常環境1)変動環境2)定常環境変動環境
2455(2)3)44(8)
48419(11)73(12)203(52)75(23)
72775(92)68( 5)434(98)60(16)
1)15℃・95.4%RHで連続培養。
2)24時間培養ごとに、70℃曝露を30分間ずつ挿入。
3)顕微鏡写真4視野の平均菌糸長、カッコ内の数字は標準偏差。


図2−A B図2−B
図2 塩化カリウム飽和溶液で調湿したアクリルボックス内でのユーロチウム発育
A:面状発熱体表面。B:向かい側の壁面


文献

  1. The American Society for Testing and Materials. (1976) Standard Recommended Practice for Maintaining Constant Relative Humidity by Means of Aqueous solutions. ASTM designation E, 104-51 (reapproved 1971), 609-612.
  2. The American Society for Testing and Materials.(1985)Standard Practice for Maintaining Constant Relative Humidity by Means of Aqueous Solutions. ASTM designation E, 104-85, 790-79



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